B.スメタナ/連作交響詩『我が祖国』より「シャールカ」


 ベドルジハ・スメタナ(1824-1884)はチェコ出身のロマン派の作曲家で、チェコ国民音楽の基礎を築いた作曲家の1人である。「シャールカ」と同じく、演作交響詩「わが祖国」の1曲である「モルダウ」が特に有名である。彼は、少期からピアノとヴァイオリンを学び、1843年にプラハに出て音楽を学んだ。また、当時チェコはオーストリアによる専制的統治下にあり、抵抗運動がプラハで盛んになっていた。彼もこの運動に参加したことで民族意識が強くなり、彼の作品に大きな影響を与えたと考えられる。
 シャールカは連作交響詩「わが祖国」の3曲目であり、ボヘミアの伝説である「乙女戦争」の中に出てくる女性達のリーダーの1人である。スメタナはこの曲について「恋人の不貞に怒って、全ての男性に復讐を誓った処女」という説明に始まる大まかなコメントしか残していないが、そのシャールカの伝説を曲にしたものと考えられる。最初は2分の2拍子、悲痛な叫びのような主題が演奏され、シャールカが男性に対して抱く怒り・悲しみ・憎しみ・そして復讐の決意が。表現される。この場面の速度表現にはma non agitato(しかし激しくなく)と書かれており、シャールカが抱くこの感情が決して衝動的なものではないことが分かる。続いて4分の4拍子で行進曲風の場面に切り替わり、女性達を駆逐しようとする軍隊の行進を表す。これに気づいたシャールカはわざと何者かに木に縛り付けられ助けを求めるふりをし、軍隊の隊長であるツチラドを魅了しようとする。クラリネットソロによるシャールカの主題の変奏がこの泣き声を表現し、チェロソロがそれを発見し魅了されるツチラドを表現する。続いてはツチラドがシャールカに告白する愛の場面である。高音楽器によるによるシャールカ、低音楽器によるツチラドがまるで語り合っているような甘く美しい掛け合いがなされる。弦楽器のトリルによって甘い空気が閉じられたのち、金管のファンファーレによって4分の3拍子、宴会の場面が始まる。宴会が進むにつれ男たちは酔いつぶれ徐々に眠りについていく。ツチドラを出し抜き、酔わせて眠らせるまでがシャールカの作戦である。完全に静まったのちホルンによる突撃の合図が鳴り、2分の2拍子、最後の場面に切り替わる。仲間の到着を待つシャールカの様子がクラリネットソロで演奏され、仲間が到着するとシャールカの主題の変奏と共に突撃が始まり、狂乱した女性達が軍隊の男たちを皆殺しにしていく。最後にツチラドの主題が変奏され、狂乱の中で曲は閉じられる。本来の伝説上はまだ続きがあるが、スメタナはあえて皆殺しにしたところで終わらせている。スメタナはなぜこのょうに終わらせたのか、そしてなぜこのような残虐な伝説を曲にしようとしたのか、彼の祖国への想いを考えながら聴いていただきたい。