フィンジ/弦楽合奏のためのロマンス


 ジェラルド・ラファエル・フィンジ(1901年7月14日-1956年9月27日)は近現代を代表するイギリスの作曲家・園芸家である。ユダヤ人であるが、曲はイングランドの作曲家の特徴を色濃く反映している。フィンジは7歳の時に父親を亡くした他、3人の兄弟を少年時代に亡くしている。また彼に音楽を教えていたアーネスト・ファーラーが第一次世界大戦中(1914-1928)に徴兵され戦死した。これらのことは彼にとって大きな心の傷となったが、この逆境は彼の荒涼とした人生観を助長した。この後も第二次世界大戦(1939-1945)を経験し苦労を強いられたが、クラリネットと弦楽のための協奏曲やチェロ協奏曲といった名曲を作曲し名声を得た。弦楽合奏のためのロマンスは1928年に作曲された彼の代表作で弦楽合奏曲の宝石とも言われる名曲である。
 曲は変ホ長調、2/4拍子、Andante espressivoである。全体を通して和声の変化に富み、それに伴って動きをみせる放旋律は大変魅力的で美しい。旋律は各楽器に与えられており曲に多彩な色付けがされている。冒頭の和音の響きは霧がかかり静寂に満ちた朝、今まさに日の光が差し込み始めるというような風景を想像させる。甚だしいリタルダンドにより幻想的な空気が漂う序奏が幕を閉じると1stヴァイオリンによって第1主題が奏でられる。第1主題は穏やかな空気が流れ優しさに満ちている。1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンの音の重なりは格別に美しい。音楽は進みヴァイオリンソロによって第2主題が奏でられる。第2主題はシンコペーションのリズムが使われている点や音の跳躍がある点から躍動感を感じる。後にこの曲最大の盛り上がりを見せると今度は1stヴァイオリンにチェロを加え厚みのある第2主題を奏でる。2回目のヴァイオリンソロが終わると再び第1主題が現れこの上ない美しさと穏やかさ、そして優しさを保ちつつ変ホ長調の和音で曲が締めくくられる。