ドヴォルザーク/交響曲第9番 ホ短調 Op.95 「新世界より」


交響曲第9番アントニン・レオポルト・ドヴォルザーク(1841年9月8日-1904年5月1日)は後期ロマン派を代表するチェコの作曲家であり、チェコ国民楽派を代表する作曲家でもある。彼は6歳よりヴァイオリンを習い始め9歳になるとア。チュアの楽団でヴァイオリン奏者として活躍するようになる。この頃から音。的才能を見せ始め、生涯にわたりスラブ舞曲集やユーモレスクなどといった現在まで広く親しまれる名曲を多数作曲した。また彼はワーグナーやスメタナ、ブラームス等、他の作曲家から大きな影響を受けて音楽人生を歩んだ。
 1892年(51歳)に彼はニューヨークのナショナル音楽院の院長として招かれその後約3年間アメリカに滞在した。この間に交響曲第9番「新世界より」を作曲した。この交響曲の表題に記された「新世界」とはアメリカのことであり、曲中にアメリカ的特徴が見られるがそれについて彼は次のように述べている。・「私が新しい交響曲の中に呼び起こそうとしたのは、黒人やインディアンの旋律に込められた魂である。(中略)私が書いた多くの旋律は全て私固有のものだが、それらの旋律にはインディアン音楽の特性が具体的に表現されている。」  第1楽章:序奏はホ短調、4/8拍子。チェロの美しくもどこか寂しげな旋律からこの曲は始まる。この旋律がフルートに受け渡されたと思うと、その空気を破るような弦・管楽器の強奏が現われる。この後は先を急ぐかのように音楽は駆け抜け主部に突入する。主部は、ホ短調、2/4拍子、ソナタ形式。始めにホルンによって奏でられるこの第1主題は簡素で短いが曲全体を支配する重要な主題である。またシンコペーションのリズムとアクセントの活用により独特の力強さと躍動感を与える。後にフルートソロによって奏でられる第2主題は第1主題とは対照的でとても美しくおおらかである。その後は変化に富む展開部、転調した再現部を経てコーダに入るとエネルギーに満ちたフィニッシュを迎える。
 第2楽章:変ニ長調、4/4拍子、複合3部形式。彼はアメリカの詩人ロングフェローによるインディアンの英雄叙情詩「ハイアワサの歌」という書物より「森の中の埋葬」という場面から2楽章のインスピレーションを得た。この楽章の中間部はそのストーリー、すなわち森の木々に囲まれて悲しみや寂しさに包まれながら埋葬の煙が静かに天へ昇っていく様子が目の前で再現されるかのようである。中間部の前後コールアングレ(イングリッシュホルン)が奏でる主要旋律は日本で「家路」という曲名で知られているものである。彼は家路を思い浮かべてこの旋律を書いたのではないものの、温かく美しい旋律は家路を想像させる。第3楽章:ホ短調、3/4拍子、スケルツォ。
 3楽章も「ハイアワサの歌」が題材である。場面は「インディアンたちが踊る森の中の饗宴」である。始めは和音変化が乏しく決して華やかではないがリズムは非常に軽快であり、農民の踊りを思わせる民族舞踏的な特徴を持つ。中間部になると踊りに華やかさが加わり活き活きとした自然も同時に感じられるようである。いずれの踊りにせよ室内の完成された踊りとは異なった自由や広がりを感じさせるところに魅力がある。
 第4楽章:ホ短調、4/4拍子、ソナタ形式。提示部は弦楽器の強奏の後トランベットとホルンにより力強く第1主題が奏でられるところから始まる。その勢いで音楽は進んでいき突然、クラリネットソロによる美しく穏やかな第2主題が現われる。展開部に入ると巧みに転調を繰り返しながら1-3楽章の主施律が顔を出す。再現部は提示部よりおおらかに旋律が奏でられ、その後のコーダで再び勢いをつけ直すとそのままフルパワーでフィナーレへ突き進む。最後の1音のみは夕暮れを思わせるようで大変美しい。*アントニーン・ドヴォルジャーク作品出版委員会資料より引用Cand.IⅢ高木優佑)